『原油掘削プラットフォーム』
画像抽出:DALL・E2
2020年4月20日に原油先物であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)が価格0に到達しそうな勢いで下落している時、自分は0になったら買いを入れようと固唾をのんで見守っていた多くのトレーダーの1人だった。
ノートパソコンにMT4チャート、デスクトップにニュースを表示し、ラップトップに接続されたマウスに指をかけながらその時を今か今かと待っていた。
そしていざレートが0に達した時、とんでもない事が起こったのである。何んとWTI原油価格は0を突き抜けマイナス方向へ値を伸ばしだしたのだ。
晴天の霹靂
0、つまりタダが物の最低価格ではない?そんな事があり得る?マイナスって事は売り手は金を払って買い手に引き取ってもらうって事?
寸前の所で買いを入れるクリックを留まったのは、長年スポーツで鍛えてきた反射神経のお掛げだった。
その後、価格0で買いを入れてしまって大きな損失を出した個人トレーダーがSNSやニュースメディアで何人も紹介されているのを目にした。
やれやれ危ない所だった。自分の反射神経にカンパーイ
めでたしめでたし
…
その後、WTI価格はそれから約2年後の2022年3月7日には$130に達した。2024年2月20日現在でも$77.75を維持している。
話をまとめると、結果的には人生でもう二度と訪れることが無いかもしれない程の絶好の買い場をみすみす逃したということだ。
月足
日足
(出典:https://www.investing.com/commodities/crude-oil-streaming-chart)
買いを入れられなかった理由
マイナス価格が有り得ると知った事で、それまで見えていなかったチャートのマイナス領域が目に入るようになり、0がただの通過点に過ぎないと考えてしまったことが原因だった。
想定外の事態に脳がフリーズした。
結局は一時的に-$40程度まで下落したが、マイナス圏に留まっていたのは日足で2本分のみ。3日目には$10に回復しそこからは基本的にアップトレンドで推移した。
日足などは、今見てもほれぼれとするような美しいチャートである。白鳥の湖を踊るバレリーナのような。
だからこそ何も出来なかった自分に腹が立つ。そのバレリーナの太ももからつま先にかけていつでも触るチャンスがあったのに。そしてそれはとても優しくそっと触れる程度でも良かったのに。
考えるべきだった事
ほんのちょっとの、優しくそっと触れる程度の打診買いも入れられなかったのはチャートだけを見てしまっていたからだ。
「落ちてくるナイフを掴むな」とか言うしな、などと考えながら。
でも少しでもファンダメンタルに気を配る癖がついていれば、もう少し常識的な発想も生まれていたかもしれない。
一体どれだけの国が原油の売り上げに頼って国体を成しているのかとか、経済的に豊かなサウジアラビアや米国、ロシアといった大国も原油の大手輸出国なのだし安すぎる状況(ましてや0を切るような状況)を放っておくわけがないとか、OPECの存在とか。
そして何よりも原油は我々の生活にまだまだ必要とされているものだということだとか。
コモディティの特性というか、手で触れることのできる物質の値決めなのだということさえ理解していれば…という後悔。
ファンダに気を配るとかいうレベル以前に、ちょっと冷静になれば誰にでも分かりそうなことに思いが至らなかった。
結果論だとしても
といったような事は後になったから言えることだというのは理解している。結果論だ。
0を割り込んでからの荒い値動きを今でも憶えているし、「手が付けられない大暴落」といったネガティブな雰囲気がSNSやニュースメディアから感じられた。一体どこまで下がるのか、と。
ただ、では原油が値を戻さない未来が有り得たのかと考えると、また悔しさが蘇ってくる。
相場において、特に鉄火場では平常心。いつものように普通に思考できることが何より求められる。
いつ何時も平常心を保つためには経験を積む以外に方法は無いのだろうけれど。
先物商品としての原油
チャートを主軸にして原油を投機的に短期売買する場合、極端なことを言えばトレーダーは原油について詳しく知る必要は無い。
…と言い切ってしまうと語弊があるが、チャートでFXや株と同列に並べてテクニカル的に値動きを眺めている程度の個人トレーダーにとっては、という意味で。
ただ、先物商品としての原油について触りだけでも知っておいて損は無いと思うので少し調べてみた。
そもそも先物取引とは
“先物取引は、事前に価格や数量、期日などを約束して商品の売買を行う取引方法です。 取引の期日までに決済を行い、買建価格(もしくは売建価格)と転売価格の差額で利益を得ることもできます。 価格の合計額ではなく一定の証拠金を準備するだけで買建や売建が可能になるため、高額の元手が不要です。”
(引用:https://www.orixbank.co.jp/column/article/266/)
という説明に合わせて、現物と先物の違いについても読むと…何となく判った気になれる。
“株式の現物取引では取引金額全額もしくは株式が必要で、取引成立時に現物の受渡が行われます。 しかし、株価指数先物取引は、期日に株価指数を一定の値段で「買う」または「売る」約束をする取引のため、取引時に現物の受渡は行われません。 そのため、決済の履行を保証し、取引の安全性を確保するため、証拠金制度が採用されています。”
(引用:https://www.matsui.co.jp/fop/study/qa/qa_03.html)
つまり先物取引とは、決められた日までにその値段で買うか売る「約束」だ。
約束だけで、現物の受け渡しは後回しということらしい。
で、それは価格変動へのリスクヘッジのためにある取引だそうである。
ちなみに先物価格がどうやって決まるかというと、計算式は
“「先物理論価格=現物価格-保有による収入(配当金など)+保有・調達コスト(金利分など)」”
(引用:https://www.nomura.co.jp/terms/japan/sa/sakimono-riron.html)
…やはり、MT4で値動きに合わせて売買している程度の人間には必要の無い知識だと思う。
原油先物取引とは
上記の先物についての引用から考えて、原油を先物で取引するということは、「期日までに決められた価格で決めた量の原油を交換する約束」ということになる。
「決められた価格」がつまりは先物価格という事だ。
ちなみに、先物原油はWTI以外にもロンドンで北海ブレント原油、東京でドバイ原油が取引されているらしい。
なお、これらはWTIがマイナス価格で取引されていた時もマイナスにはなっていない。
とは言えチャート形状は当然ながら似ているので、通常時であればどれで取引しても大差無さそうではある。
北海ブレント原油
ドバイ原油
(引用:https://www.tradingview.com/)
原油価格の予想
参考にすらならないのが相場の価格予想だが、ちょっと興味を引いたので記載しておく。
2024年2月21日現在、米エネルギー情報局(EIA)(https://www.eia.gov/)によると…
2024年:$77.68
2025年:$74.98
2030年:$87.59
2040年:$102.86
2050年:$110.35
との事。個人的に意外だったのは、原油を含めた化石燃料の使用量は減っていくものと思い込んでいたので、価格もそれに合わせて下げていくだろうと思っていたからだ。
ところが上記のEIAの報告によると、世界の石油使用量が2030年までに日量約1億200万バレル程度でピークを迎え、EV自動車などの普及でも石油の需要は大きくは減少せず、2050年でも日量9700万バレル程度にとどまる、と見ているとのこと。
またOPEC(石油輸出国機構)は2024年に”日量1億436万バレル”、2025年に”日量1億621万バレル”と予想(引用:https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/01/b61811bc3bf63ef5.html)しているようである。
「それでは長期保有目的で買っておこう」と短絡的な判断はできないが、大手機関はそう見てる可能性がある程度には頭に入れておいても良いかもしれない。